綾佳ちゃんとの出逢い

作、BORO

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1991年夏に、私は50ccのバイクに乗っていて一人でひっくりかえり怪我をしてしまい、
病院通いをしていた。
病院から家までタクシーに乗り家の前で料金を払い降りようとした時だった。
『ボロさんですよね?』と運転手がたずねた。

『ハイ、そうですけど』と私は答えた。
『これでボロさん乗せるの3回目なんですよ』と彼はつづけた。

『お願いがあるんですけど』と言う。

『何ですか?』と私が聞くと、

『実は5歳になる綾佳という娘が先天性の筋ジストロフィーという病気なんですよ…

その子が生きた証に歌を作ってやってくれませんか』と言うのだった。
私は突然の申し出に戸惑いながら…

『筋ジストロフィーってどんな病気ですか』と質問した。

運転手さんは解りやすく手短に話された。

『筋肉が萎縮するんです。娘の場合生まれつきですから、ほとんど筋肉が無いんです…』と言われた。

筋ジストロフィー症は原因も解らなければ、治療方も解らないという、難病中の難病だった。
筋肉がどんどん衰えて行く恐ろしい病気である。

よく考えてみれば、人間の身体は筋肉で動いている。

指も腕も足も…話す時にはアゴの筋肉で口が動く、

そう言えば、歌う時の声帯も筋肉だと教わった。

内臓も筋肉で動いている。

心臓も肺も…その筋肉が無くなってしまえば…
考えただけでも恐ろしい。
『娘の生きた証に歌を』…


私はその申し出に感動した。


そして、我が家で近隣の方々を招いて定期的に行なっている近隣友好のための

『お好み焼きパーティー』にその家族を招待させて頂いた。
その当日、綾佳ちゃんはお母さんにだっこされて玄関先に立った。

その顔は目のパッチリとした可愛い5歳の女の子だった…しかし、

その身体は赤ちゃんの様に小さかった。


『あっ!これがこの子の病気か』と私は思った。


『あやかちゃん…ようこそ!いらっしゃい』と私と優さんは家の中に家族を案内した。
応接間のソファーに綾佳ちゃんを座らせるために、

お母さんはクッションを綾佳ちゃんの周りに手際良く置かれた。

そして、綾佳ちゃんは安定よくソファーに座った。

そうしなけば綾佳ちゃんは、ひっくり返ってしまうのだ。
綾佳ちゃんは言葉を発することはなかったが、いつも可愛く微笑んでいた。
それは、天使の微笑みの様だった。

『ようし…この子のために歌を作ろう!』と私は決意した。

それが、私と綾佳ちゃんの出逢いだった。